男性ホルモンであるテストステロンは勃起や性欲といった性機能に関わるだけでなく肝臓のコレステロール合成、造血作用、最近では認知機能にも関わっていると指摘されており、さまざまな生理機能を持っている。血中のテストステロン量は20歳ごろをピークに加齢とともに低下するとされているが、個人差が大きく、朝は高く夜に低くなる日内変動も知られている。またストレスや飲酒で低下するなど激しく変動する特徴がある。
中高年でテストステロンが低下して起きる加齢男性性腺機能低下(LOH)症候群は、不安や不眠、集中力の低下などの精神症状と、筋力低下や疲労感、性機能低下などの身体症状が知られている。それだけでなく、前立腺がんやうつ症状、骨折、脳梗塞、心筋梗塞、糖尿病などの原因にもつながる。テストステロンが低いと心血管疾患、心不全の予後が悪化することや前立腺がんの手術を受けても前立腺がん特異抗原(PSA)再発や精囊浸潤が生じることなども報告されている。
治療の主軸はテストステロン補充療法。性欲と性機能の改善、骨密度の上昇、排尿機能の改善、体脂肪の減少、筋肉量の増加、やる気の向上などが期待できる。しかし、テストステロン補充療法が2008年ごろから急速に広まっている米国では、テストステロンの大量投与で心疾患リスクが上昇するなどとして米食品医薬品局(FDA)が注意喚起をした。テストステロン補充療法には、多血症、睡眠時無呼吸症候群などの有害事象が知られており、注意が必要になる。
テストステロンを補充しなくても、比較的軽い筋肉トレーニングでも上昇するし、勃起障害(ED)治療薬であるPDE5阻害薬を服用することでも上昇することが報告されている。前立腺がんとの関連では、射精回数が多いほど前立腺がんリスクが低いことが分かっている。
テストステロンが高いほど寿命が長いことも明らかになっている。テストステロンの生理機能を利用して健康長寿につなげていきたい。