「もう一つの不妊症」という視点で、性機能障害と性行動障害について、お話しさせてください。
動脈硬化が原因のEDは服薬治療が進歩
勃起障害(ED)のお話をさせてください。脳が性的刺激を感知すると、陰茎に血液を送る動脈が広がり、海綿体に血液が充満して、勃起します。EDの原因には、血管の問題(動脈硬化)と心の問題(性的刺激)があります。
うつ、性欲減退などの男性更年期障害は、加齢による男性ホルモンの低下が背景にあります。もう一つ、男性更年期に表れやすいのが動脈硬化によるEDです。例えば、心臓の 冠かん動脈どうみゃく の硬化は、狭心症や心筋 梗塞こうそく の原因となります。陰茎動脈の硬化がEDという形で表れたということは、太い冠動脈の硬化も始まっており、病気の予兆かもしれません。だから、EDを自覚した方には、男性ホルモンや動脈硬化のチェックをお勧めします。
バイアグラ、レビトラ、シアリスという経口ED治療薬の登場により、EDの治療は大きく進みました。
心因性EDはカウンセリングが中心
精神的なストレスがあると、神経の性的な興奮がうまく陰茎に伝わらないために、EDが起こりやすくなります。これを心因性EDといいます。例えば、性交がうまくいかなかった時、パートナーの女性に「だめね」「へたね」などと言われると、「また失敗するのではないか」という不安が大きなストレスとなり、EDの引き金となります。心因性EDの方の性行動障害の診察と治療は、カウンセリングが中心となります。
強い刺激に慣れてしまい、射精障害に
マスターベーションのやり方に問題があり、マスターベーションでは射精できるのに、セックス時に 膣内ちつない では射精できない「膣内射精障害」もあります。原因として多いのが、マスターベーション時に陰茎を強く握る癖がついてしまい、膣の圧力では刺激が足りなくなることです。また、布団や床などに陰茎をこすりつける「床マスターベ-ション」も、陰茎を損傷する危険があるほか、強い刺激に慣れてしまい、射精傷害につながります。
ヒトの性行動は学習が必要 動画による誤解に注意
テレビなどで、サケの産卵をご覧になったことがあると思います。誰に教わることなく、本能で繁殖行動ができます。ヒトの性行動は本能による部分はごくわずかで、学習が必要です。ヒトが外界から得る情報の95%は視覚情報であり、動画の視聴は脳に最も強い性刺激を与えます。
今は、小学生でもスマートフォンやタブレットなどを持っており、小中高と学年が進むにつれ、「アダルトサイトを見たことがある」と答える割合が増えていきます。小中学生が過度に刺激的な性行為(演技)を見てしまうことで、それがスタンダードな性行動だと誤解する恐れがあります。
成人においても、自分はアダルトビデオの男優ほど女性を喜ばせられないと劣等感を抱くケース、逆に、ビデオ内で行われる性行為をパートナーに強要してトラブルになるケースがあります。