性機能障害で悩む女性は多いが、実際に患者から性交に関する悩みを相談されると適切な対応ができない泌尿器科医や産婦人科医は多い。性機能障害の診療に積極的に取り組む女性医療クリニックLUNA心斎橋(大阪市)院長(女性泌尿器科)の二宮典子氏は、第28回日本性機能学会(9月21~23日)で「誰にも悩みを相談できない”セックス難民”を生まないためには、医師の側から性交に関する問診を行うことが重要」と指摘、実例を示しながら性機能障害に対する診察のポイントを解説した。
性機能障害の原因は1つでない
二宮氏は、患者のモデルケース(22歳)を挙げて、診療の実際を示した。
同クリニックでは、初期問診票に「セックスについての相談」という項目を設け、患者が相談しやすいよう配慮している。この項目を選択した患者に対する問診では①職業(最終学歴)②家族構成、性教育歴③受診契機④詳細な性交歴⑤患者の希望するゴール―の5つのポイントを踏まえて問診している。特に⑤は、ゴールが妊娠の場合、早めに人工授精に移行するなどの選択肢も視野に入れる。性機能障害の原因は年齢によって異なる点にも注意する(表)
表. 年齢層別に見た性機能障害の原因
(二宮典子氏提供)
問診の結果、性器・骨盤痛、挿入障害の可能性を疑い、採血、尿検査、内診、経腟エコー、性感染症チェックを施行した。
内診を行う際のポイントは①内診台ではいきなり陰部から触らず、腹部、大腿、大陰唇、会陰部、小陰唇(外側、内側)の順に触れる。さらに、綿棒を使って前庭部、陰核、尿道周囲、処女膜、骨盤底に触れる。可能であればクスコ腟鏡を用いて腟壁、後腟円蓋、子宮頸部を診察する。
腟に指を挿入する場合、まっすぐに挿入すると尿道側に当たり痛みが強いため、腟後壁を意識して壁に伝うように処女膜を越えると痛みが少ない。
医師から問い、”セックス難民”を防ぐ
検査の結果、患者の訴えは前庭部痛によるものと判明。原因として低用量ピルの影響による薬剤性の性交痛、高プロラクチン血症による性交痛に加え、性交に対する緊張や不安など精神的な背景も影響していることが考えられた。
治療では、骨盤底筋トレーニングと性交時の潤滑剤の使用を指導し、薬物療法として高プロラクチン血症に対するカベルゴリンと桂枝加竜骨牡蛎湯を処方。さらに、女性器の仕組みと疼痛部位を正しく理解してもらうよう患者教育を実施した。
治療の結果、患者は前庭部の痛みを克服、徐々に挿入、ピストン運動が可能となり、当初の治療目標であったパートナーとの普通の性交ができるようになった。
二宮氏は「性機能障害の原因が1つであることはない。列車に例えるなら、目的地と途中停車駅をこまめに確認し、少しずつ成功体験を繰り返しながら、複合的な要因を取り除くことが重要」と指摘。さらに「勇気を出して医師に相談しても取り合ってもらえなければ、患者は二度と医療機関には相談しない。セックス難民を増やさないためには、医師の側から性交のトラブルがないかを問いかけることが必要」とまとめた。