男女のパートナーの不妊問題が語られるとき、長い間それはおもに女性側に原因があると考えられてきた。また、バイオロジカル・クロック(「生物時計」すなわち「妊娠可能な年齢の限度」の意。一般的に35歳くらいまでと考えられている)のために該当する女性たちに、本人の意思にかかわらず結婚・妊娠を迫るような風潮もある。
だがこのところ、最新の研究結果などを受けて、専門家たちが次々に声をあげ、年齢による 精子の質の衰えや、男性側に不妊の原因がある場合、そして男性側の「バイオロジカル・クロック」にも注目が集まっている。
男性セレブが悪影響?
これまでの多くの研究で、不妊ケースの20〜30%は男性側のみが原因、全体では半数のケースに部分的に関与していること、また40歳以上の男性、とりわけ45歳以上では精子の量と質が下がり、45歳以上のパートナーを持つ25歳以下の女性の場合、男性が25歳以下の場合に比べ妊娠までに5倍の時間がかかり、流産の可能性は倍になる、などの結果が出ている。
これらの結果を受け、ガーディアンに不妊治療専門家が、女性だけでなく男性も自らの「バイオロジカル・クロック」についてもっと意識するべきだとの意見を寄せている。また、50代〜70代のセレブリティの男性たちが父親になったというニュースがしばしば世間を賑わすが、このような報道が男性にもバイオロジカル・クロックがあるという事実から目をそらす原因になっているとも指摘する。
精子を衰えさせるもの
45歳以上の男性の精子には多くの損傷が見られ、それが妊娠の起こりにくさや流産につながる。年齢のほかにも、喫煙や過度の飲酒、娯楽的なドラッグの使用、不健康な食事、座りっぱなしの生活や体重過多などが精子の質や量に影響を与える。しかも、これらを改善しようと健康的な生活に切り替えても、体が新しい精子を作り出すには3ヶ月かかるという(ガーディアン)。
さらに28日には、WHO基準の「郊外の道路程度」に相当する夜間騒音レベルである55デシベル以上のノイズにさらされ続けることが男性の生殖能力の著しい低下につながるというソウル大学校の最新研究結果をUPI通信が報じている。
【参考記事】カナダで性別を定義しない出生証明書実現の見込み
ポジティブなとらえ方も
たとえ子供を授かったとしても、45歳以上の父親の場合は子供に低身長症などの症状がみられる場合がある。また、自閉症やADHD(注意欠如・多動性障害)と診断される可能性が、20〜25歳の父親の場合のそれぞれ5倍、13倍になるという。
とは言っても、ポジティブな知らせもある。高齢の父親を持つ子供は「ギーク」になる可能性が高くなるという研究結果が、先週Newsweek米国版をはじめ多数のメディアで報告された。
「ギーク」は、「ナード」とともに「オタク」を表す語として用いられ、社交性に欠ける人物という印象があるが、その一方で高い知能と強いこだわりを持つ人が多い。アメリカとイギリスの研究者がイギリスの12歳の双子の膨大なサンプルから最終的に7781人のデータをもとに、非言語式知能検査の結果と、興味の対象への集中力、社会性の欠如などを基準に「ギーク指数」を割り出したところ、この指数は父親の年齢と比例して高くなった。ここでも45歳がポイントとなるようだ。
ただし、この傾向が見られたのは男の子のみ。一般にギークといわれる男の子たちはSTEM(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、数学)に強いとされる。現代の社会状況を考えると、これらの資質は将来の成功につながる可能性が高い。高齢の父親による問題点が多くとりざたされるなか、これは朗報といえるだろう。
高齢の父親はたとえば学術分野などに長くたずさわっている傾向があるので、このような特徴は父親自身に培われた後天的な要素と、先天的な要素、すなわち高齢で起こる精子の突然変異による2つの理由が考えられる。
論文の著者の一人、マグダレナ・ジャネッカ博士は「私たちの第一の仮説は、高齢の男性の子供に見られる高レベルの『ギーク』の特徴は基本的に父親自身の特徴によるものだということです。父親になる年齢を遅らせることにした男性はたいていキャリアの延長や学究的な探求が原因で、彼ら自身が高レベルの『ギーク』である可能性が高いからです」と語った。
もう一つ重要な点は遺伝的な問題だ。「ギーク」の特質はともすれば自閉症にもつながるが、女の子にこの特性が見られなかった点から、父と息子のあいだの特別なつながりがわかれば、なぜ自閉症が男の子に多いかを究明する手がかりになるかもしれないという。
ジャネッカ博士はまた、この研究結果が高齢の男性に家族計画を思い留まらせるものであるべきではないと考える。男性もバイオロジカル・クロックを意識し、健康的な質と量の精子を保つ努力は必要かもしれないが、あまり年齢を気にしすぎることはないのかもしれない。