Newsweek日本版より
<米ジョージア医科大学の研究で、バイアグラに大腸がんのリスクを軽減する働きがあることが明らかになった>
「シルデナフィル」は、先発薬である米製薬会社ファイザーの商品名「バイアグラ」としても広く知られる、勃起不全(ED)や肺動脈性肺高血圧症の治療薬だ。血管拡張を促進する作用を有することから、慢性心不全や肺高血圧症など、様々な疾患の治療に活用されてきたが、このほど、この治療薬に大腸がんのリスクを軽減する働きがあることが明らかになった。 腫瘍性ポリープの数が50%減った
米ジョージア医科大学のダレン・ブラウニング博士を中心とする研究プロジェクトは「バイアグラが、がん化する恐れのある腫瘍性ポリープの形成を半減させた」との研究結果を米国癌学会(AACR)の学術専門誌で発表した。
この研究プロジェクトでは、飲み水にバイアグラを入れ、遺伝子変異マウスにこれを4週間飲ませる実験を行ったところ、マウスの腫瘍性ポリープの数が50%減った。
このメカニズムについて、ブラウニング博士は次のように考察している。バイアグラには、腸内層に作用する「環状グアノシン一リン酸(cGMP)」を分解する「5型ホスホジエステラーゼ(PDE-5)」を阻害する働きがある。
つまり、バイアグラの働きによって「環状グアノシン一リン酸」のレベルが上昇することで、腸内での過剰な細胞増殖を抑制し、正常細胞の分化を増加させ、「アポトーシス」と呼ばれる積極的・機能的な細胞死のプロセスを通じて異常細胞が自然に排除されるというわけだ。
便秘薬「リナクロチド」も効果があったが、副作用も
また、この研究プロジェクトでは、バイアグラと同様に「環状グアノシン一リン酸」を増やす作用を持ち、便秘や過敏性腸症候群の治療に用いられる「リナクロチド」についても、遺伝子変異マウスに対する実験を行った。
その結果、腫瘍性ポリープの数が67%減少し、バイアグラよりも腫瘍性ポリープの減少効果が高いことがわかった。ただし、低用量の使用においては副作用が認められていないバイアグラに比べて、リナクロチドには下痢などの副作用がある。そのため、ブラウニング博士は、大腸がんのリスクを軽減するためであっても、リナクロチドは長期使用しづらいとみている。
研究プロジェクトでは、今後、「環状グアノシン一リン酸」が腸内層にどのような影響をもたらしているのか、さらなる解明をすすめるとともに、大腸がんのリスクが高いと考えられる患者への治療薬として、臨床実験にも着手する方針だ。
日本の罹患率は10万人あたり32.2人
世界がん研究基金(WCRF)によると、大腸がんは3番目に多いがんといわれ、とりわけ、日本の罹患率は10万人あたり32.2人で、世界で20番目に多い割合を記録している。バイアグラに潜んでいた意外な効果が大腸がんの治療に役立てられ、多くの人々の生命を救う余地は大いにありそうだ。